・前回のあらすじ
予測される最悪の未来を回避すべく、己の戦場を定めたアステリア。
そして、第３階層最奥部へと足を踏み入れるのであった。
・前回⇩
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第3階層のネタバレが含まれます
「あそこにいるのは……クジュラ？」
「おそらく、ゲートキーパーの偵察をしてくれたのでは？」
「あの扉の先に……」
「差し入れのおやつをあげましょうか？」
「……あんまり甘いもの食べるってイメージが無いわね」
「……貴方をして『化け物』と形容せざるを得ない存在ですか」
「クジュラさんがそこまで言うほどならば、もう少し準備が―――」
「……！！ あんた、怪我してんじゃないの！？」
「なんという無茶を……！」
「手当しないと！」
「両腕で構え……、恐ろしい威力の光？」
「クジュラ……。―――貴方の戦、我々が引き継ぎましょう」
「敵の情報は手に入りました。先に言った通り、一度海都に帰還します」
「し、しかし……！」
「彼の目は死にゆく者の目ではない。それに―――」
「我々と同じ”痛み”を共有しようとしているはずです。
同じ戦場に立てず、ただ託すことしかできない。そうであるからこそ」
「……そういうものなんですか？」
「たぶん、あのふたりにしかわからない事だと思う。……きっとね」
「……あたしはモンクの才能を取得してきてよかったわね。
お葉の分身のフォローくらいはできると思う」
「……遮蔽物は無し。戦いやすいけど、同時に安全地帯も皆無か。
これを打ち破らなければ先へは進めない。覚悟はいい？」
「やりましょう」
「……よろしい。闘志は業火の如く！ 鈍色の傀儡を討ち破らん！」
「姫様、まずはどうしましょうか」
「貴方は分身をしてください。他の皆は攻撃を。
クジュラが言っていた『構え』を見たら、迷わず全員が防御態勢を」
「彼があそこまでやられるだけの搦め手もあるでしょう。
お葉とキルシェは回復できる余力を残すように」
「あっ……！？」
「こ、これって、あの『構え』なんじゃないの！？」
「しまった！ 初手で使ってくるとは……！」
「弱点は突けてるけど……ぜんぜん構えが解けない！」
「わたしとプレールの砲撃も効いてはいる……」
「このままではお葉が危険……！」
「どうしよう、回復か防御かどっちかしかできない……」
「か、覚悟はしています。姫様、ボクが倒れたら―――」
「……ええ。必ず、……必ず助けてみせます」
「来る……！！」
「全員、防御態勢！！」
「受け流せる……！ しかし、凄まじい衝撃……！」
「うぐ……！」
「お葉ちゃんが！」
「わたくしはネクタルを使います！ キルシェはラインヒールを！」
「な、なんとか助かりました……」
「お葉、作戦変更です。敵の情報が集まるまで分身を控えてください」
「わたしは回復と攻撃、どっちにしたらいい？」
「キルシェは回復を主に。隙があったら圧縮エーテルで攻撃を。
プレールは特殊弾が無くなり次第、通常弾で攻撃を続けなさい」
「はい！」
「壊れた！？」
「違う、分離して襲ってくる！」
「……」
「シグドリーヴァ？」
「姉上、敵の動き方を覚えてください。少し気になることがあります」
「ええ、わかった」
「頭から高熱のレーザー、胴体は打撃……」
「胴体が堅そうだけど、あの隙間から炎か雷なら……」
「頭の部分は装甲が薄そうですね」
「頭はうちがやります」
「プレールに続いて、まず頭を狙いなさい！」
「吹雪……！？」
「炎だけじゃないの！？」
「テュール様の技はどれか一つにしか対応できないのに……！」
「……ここまでに搦め手は無し、か。
姉上、胴体の物理攻撃だけを警戒してください！」
「わかった。お葉とキルシェは回復準備！」
「合体した……！」
「たたかれたら絶対いたい……」
「構え、破壊光線、分離、攻撃数回、合体……これはもしや？」
「姉上も気付かれましたか。しかし、次の行動を見なければ仮説にすぎません」
「攻撃しないでまた構えた……！？」
「……確信が持てました。しかし、まずこれに耐えねば話になりません。
全員、直ちに防御態勢！」
「今度こそ耐えてみせる……！！」
「もしかしてコイツ、決まったパターンを繰り返してる？」
「ええ、それで確定と見て良いでしょう。
分離したら守りを固め、合体するタイミングで総攻撃を仕掛けます！」
「も、もう少し……！！」
「動きさえ見極めれば、これほどに御しやすいか」
「弾がそろそろ……」
「大丈夫よ。さあ、キルシェ」
「コイツの未来はもう視えた！ ……ここ！」
「や、やった……！！」
「ついに……」
「へとへとです」
「みんな、本当にお疲れ様」
「……そう、我々一人一人は弱いかもしれない。
しかし先人たちは皆、困難を前に手を取り合い、立ち向かったはずだ」
「……？ どうしたの？」
「……ん？ ああ、いえ、皆の成長が感慨深かったものでしたから」
「……！ そうだ、クジュラさんは！？」
「いったん戻ろう！」
「……！ あそこの扉の前、血だまりがある」
「も、もしかして……」
「いいえ、彼は我々の戦を見届け、帰還したのでしょう」
「ど、どうしてわかるんですか？」
「あくまで勘ですけどね。
しかし、クジュラは決して引き際を見誤るような男ではないはずです」
「それじゃあ、このまま進んでも大丈夫……なのかな」
「……」
＞お葉は装飾の施された鋏をじっと見つめる
「その鋏、いつも大事そうに持っているわね」
「え、ええ。これは……亡き父からいただいたもので。
……お守りとして肌身離さずにいるように、と」
「父の形見ですか。それでは手放せませんね」
「お守りは大事」
「でも変わってるわね、鋏をお守りになんて。なにか理由があるんでしょ？」
「父の家系には、”鋏は『悪縁』を断つ力を持つ”と伝えられていたそうです。
……きっと、ボクを慮ってのことだったのでしょう」
「……それはどういうことです？」
「……ボクは孤児だったそうなのです。
生まれて間もなく、山に捨てられていたのだと……」
「……」
「ひどい……」
「お葉……」
「しかし、そこに父……というより、義父ですね。
義父がボクを見つけ、保護してくれたそうです」
「……そうだったのですか」
「……暗い話でしたね。さあ、もう対岸に着きます。行きましょう」
（お葉が臣下になった経緯と、シグドリーヴァも知らないお葉の秘密、
……この子がどんな人生を送っていたか、おおよそ察しがついたわ）
「風がつめたいです……！」
「この灼熱地帯も、ようやく終わりですね……」
「この先が……フカビトの居城？」
「おそらくね。さあシグドリーヴァ、ひとつ気合の入る檄をお願い」
「ええ。昏きを照らす意志を胸に！ 進軍せよ！」
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―――
人 大地に在る如く 神 其れは昏き水底に
母なる深淵 其の巨躯を包み込む
其処に集うは人の嘆き 此処に響くは従者の祈り
此処に至りし者 心せよ
光喰らい尽くす闇在ることを 希望打ち砕く光在ることを
矮躯な其の身に 刻み付けよ
―――この地の名は、『第４階層 深洋祭祀殿』
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